SF超大作「続・大福」第5話

5話 「社員証」

 

慌てて今着ているシャツのポケットも探ってみた。

「間違いない。ちゃんとある。でもこれは、世界に1枚しかないはずのボクの社員証。どうしてそれが、このシャツのポケットにも?」

二つの社員証を机の上に並べて、よく見比べてみた。社員証の右端のところについている小さな傷まで全く一緒だった。

「これはどっちも本物だ。 いや、本物というより、同じものだ。」

この世ではありえないことが、今現実にボクの目の前で起きていることを知り愕然とした。

「単なる殺人事件の方がまだましだ。」

小さくつぶやき、社員証も血の付いた衣類も、先ほどの包丁と一緒に新聞紙で包み込み、職場にある大きなゴミ袋に詰め込んで、何重にも結んだ。その後は何も思考ができぬまま、退社時刻の午後5時まで椅子に座り続けた。

そして5時を過ぎ、人に見られてはいけないものがないか慎重に辺りを見渡し、問題ないことを確認した上で会社を出た。包丁と衣類の入った袋を車のトランクに詰め込み車をスタートさせた。いつも通いなれた道。ただ今夜は、何だかどこかで誰かに見られているような気がする。ふとバックミラーで後ろの車を見た。水色っぽい軽自動車が1台ついてきている。ライトの灯かりのせいで運転している人の顔は見えない。でも、少なくとも凶悪な人が乗っているような雰囲気はない。普段はこのまま本線を直進するのだが、なんとなく気になって、次の交差点を左折してみた。そうすると偶然なのか、後ろの車も左折してきた。少し不安になり、次は保健センターの横に入る小路へ右折してみた。これで相手も右折してくれば、おそらくボクをつけてきていると分かるだろう。すると軽自動車は、ボクの不安をよそにそのまま右折することなく行ってしまった。今朝から続く異常な出来事のせいで、ボクは少し神経質になっているようだ。そのまま保健所の横に車を止め、一呼吸ついた。

不思議なことに、今は誰かに見られているような感じはしなくなった。

「このまま家に帰るのはマズイか… 」

でも、だからと言ってどこへ行って何をすればいいのか全く分からない。そうして考えているうち保健所の裏手に、さっき通り過ぎて行ったはずの水色の軽自動車がいつのまにかそ止まっているのに気付いた。

「やっぱりつけられている。」

急に心臓の鼓動が早くなった。再び車を始動し、水色の車とは反対側の右へハンドルを切った。そのまま普段の通勤路に戻りスピードを上げた。

「大丈夫。ついてきていない。」

交差点の信号が赤に変わりそうだったが、ここで止まれば再び追いつかれると思い、赤信号に変わるのとちょうど同時に突っ切った。

「振り切れた。これでもう大丈夫だ。」

ただ、もうひとつ心配なのは、彼がボクの家を知っているかもしれないこと。でも、それなら何もボクをつける必要もなく、家の前で待っていればいいわけだ。  だから家は大丈夫なはず。そう確信して自宅へ向かうことにした。   

 

(第5話のあとがき)

 

さて、お正月気分も本日で終了というところでしょうか。ボクはこれから旅に出ます。 って言いたいところでしたが、やっぱりボクもまだお正月気分  なので昼間から家でお正月晩酌になっちゃうのです。本日は栗山町小林酒造株式会社の「冬花火」で晩酌ですぅ~♪  で、 明日からまた気持ちを入れ替えて、仕事に旅行に全力で向かうのですっ! 本日も見て下さってありがとうございます。  

(おしまい)